「+α」の部分(2002.9)(写真多:めちゃくちゃ重いです)

またしても雨

今日も朝から雨である.しかも,この三日間で一番激しい降りだ.昨夜,称名滝に行って立山博物館にも行って,といろいろ考えたが,すっかり行く気をなくしてしまう.

昨日歩きすぎたせいで筋肉痛気味でもある.おそらくあの階段の上り下りがきいているのだろう.

「今から山に登られるんですか?」

宿を出るとき,宿泊客のひとりに聞かれた.

「いや,昨日下りてきたところなんです」と答えると,心なしかがっかりしたような表情で「そうですか・・・」と言う.

ご本人は今から上る予定らしいが,雨のせいで少々ためらっているようだ.昨日私が歩いたコース程度なら,雨でも全く問題ないだろうが,本格的に登山をするならやめたほうがいいと思う.

雨に追われるように電車に乗り,常願寺川ぞいを富山に向かう.この川は昔から氾濫が多く,付近の人々を苦しめていたのだそうだ.

常願寺川

ところが富山に着くころには,雨が止み,晴れ間がのぞきはじめた.これなら,しばらく待って称名滝に行ってもよかったかなと少々くやしい思いを感じつつも,電車を降りる.

富山といえば,まず思いつくものは富山の薬売りだ.駅前には,薬売りの像まである

しかし,ここはひとつ,富山城址に行ってみようと思い立つ.大河ドラマでもやっていることだし・・・とはいえ,大河ドラマはほとんど見たことがない.確か富山城は前田家のはずだが,加賀との関係も今ひとつわからないでいる.

富山城址には歴史資料館くらいしかないが,富山城が,以前は佐々成政のものだったが,彼が豊臣秀吉に敗れてから前田家の持城になったということがわかった.その後,徳川時代に前田家の次男が藩主になったらしい.つまり分家,親戚筋ということか.

前田家は,信長−秀吉−家康に仕え,すべてにおいて栄えたというわけになるが,機を見るに敏だったということだろうか.

近くで,城址公園内で,ガラス工芸品の展覧会をやっていたので,それも見に行ってみた.入口のところには砂絵が飾ってあり,儚いところがまたいい.

富山城址 砂絵

ガラス工芸品は,凝ったものが多くて,いったいどうやって作るのか知りたくなる.中でも,野田雄一という人の作品には惹かれるものがあった.

金沢へ・・・

富山城址に来たからには,金沢城址も見てみたい.金沢行きの電車に乗る・・・その前に,少しばかり空腹を感じ始めていたので,何か食べることにした.

土産物屋で,ます寿司のばら売りをやっている.ます寿司とはいうが,「ます」「ほたるいか」「白えび」があったのでひとつずつ買って電車の中で食べた.

「白えび」という名前は初めて聞くものだったので,どういうものかとわくわくしながら食べてみたが,味に覚えがあった.味というより食感である.立山駅のかき揚げそばだ.殻つきの白っぽいえびで,普通の小海老にくらべると殻はだいぶやわらかいようだが,それでも食感ががさがさした感じになるのは否めない.身の味が全くせず,殻だけを食べているような錯覚に陥った.

「ほたるいか」は,ほたるいかの煮つけが丸ごと乗っているだけのものだが,これが一番美味に感じた.

ところで,富山には路面電車が走っている.特に思い入れはないはずなのだが,私はなぜか,路面電車を見ると,ひどくなつかしい思いにとらわれるのである.さらに不思議なのは,路面電車自体よりも,レールに対して,より強く感じることだ.道路の真ん中を通る,枕木も砂利もない二本の溝が,どうしてそんな郷愁を呼び覚ますのだろうか.

黒部ダムにもいえることなのだが,私は,人が作ったものが好きなのだと思う.人が作って,長い時間が経って,それでも立派に機能しているもの.長い時間のうちに捨てられ,残骸しか残っていないもの.どちらも好きだ.作った人はとうの昔に死んでいるかもしれない.作った人の名前すら,どこにも残っていないかもしれない.でも,その人がさまざまな思いを込めて作ったものは残っている.

それほどたいしたものでなくても・・・例えば,大昔,切り倒された木が,放置されて苔むしている光景さえ,感動的なものとなる.大昔,私が立っている場所と同じ場所に立って,木を切っていた人がいるのだから.

以前,屋久島に行ったとき,長い時間の流れを感じ取ることができるものが好きだと思ったが,どちらかといえば,何千年もまっすぐそびえたっている木よりは,切り倒され苔むした切り株のほうが好きだ.

神社の神木にかけられたしめ縄でさえ,これまでこのしめ縄を付け替えた手はいくつにのぼるのだろうと考えると,とても不思議な気分になる.

そんな,愚にもつかない考えを頭の中でもてあそんでいると,電車は私の地元とおなじ名前の駅に停車した.よくあることではあるが,あ,ここで乗り換えたら家の近所だと,ふと錯覚しそうになる.

これで,短編小説くらいは作れそうだ.気ままに旅をしている最中,郷里と同じ駅名を見つけ,興を覚えて電車を降りる.するとそこは自分の郷里だった.でも何かが少しずつ違っている・・・ありがちな展開だな.

金沢到着

久しぶりに都会に来たような気がする.めざすは,金沢城址と兼六園だ.兼六園も,以前から見てみたかったので楽しみである.

金沢駅に着いた私を最初に出迎えたものは,「加賀百万石博」というポスターだった.どうやら,今,大河ドラマ関連でいろいろやっているらしい.富山とはえらい違いである.

人波にさそわれるようにバスに乗り,金沢城址に向かう.城址ということは,ここも富山同様,建物は残っていないのだろう.

バスは市内を走り,やがて,兼六園下という停留場に到着した.停留場からは,ややきつい上り坂である.この旅行では,私は歩く運命にあるらしい.

入口 石川門

重厚な門をくぐって中に入ると,だだっ広い中に,なぜか城のようなものが建っている.しかもかなり新しそうだ.大河ドラマ関連で,最近建てられたものだろう.

新しい建物 新しい建物

展示は,基本的には,大河ドラマのものである.人物や時代背景,当時の物品もあるが,すべてドラマの登場人物の写真にかぶせてあるし,ドラマ撮影風景もある.ここ当分の間は,日本人の大多数にとって,前田利家はあの顔で,おまつの方はあの顔なんだと思うとなんだかおかしい.

富山の佐々成政との話も,詳しくわかって面白かった.佐々成政に持ち城を攻められた前田利家が救援に駆けつけ,待ち伏せをかいくぐって勝利をはたす.一方負けた成政は,家康の助けを求めて雪のアルプスを越えたが結局協力は得られなかったという話を,詳しく図解してある.なるほどこのあと,富山城は前田家のものになるのだろう.

伝統工芸の実演もやっており,なかなか楽しめる.また,外では,和太鼓の演奏もあり,屋台もたくさん出て,伝統工芸品や菓子を売っている.

和太鼓演奏(鼓魂) 仮装

百万石博のあと,菱櫓・五十間長屋・橋爪門続櫓にも行った.ここもまた新しい.昔とおなじやり方で組んでいるのだろうが,どうも新しすぎて,あまり感慨にひたることができなかった.

新しい木の匂いがするし,建物の真ん中をエレベーターが突っ切っている.石落しはガラス張りで,床はねじ止め,壁にはコンセントがついている.あと何十年かしてからまた来てみれば,少し違った感想になるかもしれないが.

菱櫓

金沢城址は,まるで森のようで,さまざまな木にあふれている.天守閣はもちろん,丑寅も辰巳の櫓もすでにないが,それぞれの展望所から金沢市が見渡せる.

とても古いものと,とても新しいものが同居している光景はいいものだ.金沢市は,古いものと新しいものが連続している気がする.そういう意味では,京都と少し似ているのかもしれない.もっとも,京都ほど町並はわかりやすくない.

石垣のなかの・・・ 石川門

兼六園

広い.

ここは,くどくどしく説明するより,写真を並べたほうがいい.ページは重くなるが.

兼六園 兼六園 兼六園 兼六園 兼六園 兼六園 兼六園 兼六園 兼六園 兼六園 兼六園 兼六園 兼六園 兼六園 兼六園 兼六園 兼六園 兼六園 兼六園 兼六園 兼六園 兼六園

スケールが,大きすぎる.今は梅の季節でも桜の季節でもつつじの季節でも菖蒲の季節でも雪つりの季節でもなかったが,おそらく季節ごとに変わった姿を見せてくれるのだろう.

こんなものを身近に見られる金沢市民がうらやましい.しかも,今日は,県民の日ということで,石川県民は無料開放なのだそうだ.

金沢市泊

今日は,金沢市泊まりに決めた.大きな街だと,旅行センターが駅構内にあり,宿泊手配してくれるので便利である.

「駅から近くて,一番安いところ」というと, APA ホテルというビジネスホテルを紹介してくれた.

夕食は,麩料理の専門店に行って,生まれてはじめて,「生麩」というものを食した.ものすごくもちもちしていて,不思議な食感だ.甘くないういろうのような,お団子のような.そういえば,以前どこかで,「麩饅頭」というものを食べたような気がする.

その他,麩をそぼろ状にしたものや,生麩のフライ,麩の酢の物,麩のかりんとうなど,麩だけでこれだけ食べ方があるなんて思ってもみなかった.

ところで,今日は日曜日である.せっかく金沢城のすぐそばにいるのだから,大河ドラマを見てみるのもいいんじゃないだろうか.

折りよく,大河ドラマは,佐々成政が前田の持ち城を攻めているところ.ちょうど,今日,百万石博で見た,あのシーンだった.

すぐさま救援に駆けつけようとする前田利家に,石田光成が,豊臣秀吉の意向を伝える.「動くな」と.しかし,まつが利家にはっぱをかけ,送り出す.このシーンのまつの手紙も,展示物の中にあった.

利家が来るのを佐々成政はむろん予測して,待ち伏せの兵を置いていた.しかし利家はその裏をかき,成政を打ち破る.敗れた成政は,アルプス越えを思い立つ・・・.

むろんドラマだから,多少の誇張や演出はあるだろう.しかし,前田利家や佐々成政や,まつなどという人物は確かにいて,いろんなことを考え,戦っていたのだろう.

それを,遠い未来,当時では思いもつかない,ホテルの高階で考えている私がいる.時間を縦に切って見ることができればどんなに面白いだろう.

古都散策

翌日は,ひがし茶屋街という古い町並みのほうに行ってみた.やはり,金沢市は,古いものと新しいものが同居する街だと実感する.

お寺 店

同じ場所に立って見た右側と左側.印象が全く違う.

新しい橋 古い橋

ひがし茶屋街.もっとも,ここが本当ににぎわうのは夜だそうで,朝行っても古い建物があるばかりである.道幅が意外に広く,建物もきれいだ.

古い町並

ほかにもまだ見たいものはあるが,そろそろタイムリミットである.それにしても,名古屋から発してアルペンルートを抜け,金沢まで.我ながら四日間でよく動いたものだ.

明日からまた仕事が始まると思うと,ぞっとするが.

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