北方見聞録(2000.12)


あてどなく・・・

このあいだ,たいした理由もなく,きわめて安定していて,カタい仕事をやめた.このご時世,そーゆーバカなことをするのは,「世間知らずで,甘ちゃんで,人生なめてかかってる」んだそーだ.うーむなんかヒドイ言われよう・・・

しかもそれが否定できないのである.仕事をやめて最初に思ったことといえば,これで日にちを気にせず,勝手気ままに出かけられる,ということだったし.・・・いや,今までだって結構勝手気ままに出かけてたな・・・.考えてみたらわたしみたいなすちゃらか社員,クビになる前にやめて正解だったかも・・・

でも,時間に余裕ができると,逆にフトコロ具合には余裕がなくなるものだ.世の中うまくいかない.これも反比例の法則っていうんだろうか?

四国の片田舎に引っ込んでしまう前に,もう一度北のほうにいっときたいが・・・びんぼー旅行をせねばなあ.・・・とは思うものの,わたしはかなりくいしんぼうだから物珍しいものは手当たり次第に食べるし,みーはーでもあるから目に付いた観光地にも手当たり次第に行く.

そして最大のモンダイは,やっぱり宿泊費・・・.夏場だったら,一日やふつか,ホテルに泊まらないでふらふらしてても何とかなるけど,この季節だから,朝になったら冷たくなってかねん.そーゆーのはできれば遠慮したい.

ま,いいか.適当にやろっと.・・・ひどく楽天的(能天気ともいう)に考えながら,借家を引き払う.

とりあえず,今夜の宿はどうするかな.24時間営業のファミレスとかファーストフードをはしごするか.いくら24時間営業でも,コンビニで時間つぶすのはちょっと難しいかな〜〜〜なんてことを考えながらぶらぶらしていると,おりよく目にとまったものはマンガ喫茶.しかも午前0時から7時までの間は一律料金になるそうだ.夜明かしにはちょうどいい.

インターネットも利用できるし,仮眠用のソファもある.しかし,同じことを考える人はわりと多いらしく,結構人がいるのにはびっくり.ま,若いコばっかりだけど

さて,オンライン小説を読んだり,寝ながらマンガのシリーズを読破したりして迎えた翌朝早朝.今日は平成12年12月12日,日付表示に1と2だけがずらずらっと並ぶなかなか楽しい日である.・・・これが通知表とかだとタイヘンだけど.

始発の電車で移動を開始,したわけなの・だ・け・れ・ど・・・.

ちょーっとばかし,早すぎたようである.車窓から見える外の景色は真っ暗で,終点の駅に着くころになってようやく夜が明けてくるような次第.しかも私の前途を暗示するよーなキビシー寒さ!

日が昇って多少暖かくなってくるまで適当に電車を乗り継ぎ,たどり着いたのは宇都宮だった.

やっぱり餃子?

そーいえば,ウワサのぎょーざビーナスとやらが立ってたのって,宇都宮駅じゃなかったかしらん.どこにあるんだろ? 駅の周りを見回しては見たものの,どーもそれらしいものは見つからない.

ま,とにかく餃子を食べようか.朝っぱらから,とか,そういうのはぜんぜん気にしない.

駅ビルのパセオに行くと,青源(あおげん)みそしる亭っていう餃子を食べさせてくれる店がある.その隣には,「みんみん」っていうやっぱり餃子屋さんがある.同じような店が二件隣接しているとは,やっぱり餃子の街だけある.

「みんみん」は宇都宮餃子のルーツらしくて,メニューもオーソドックスなものが多い.一方,「青源」のほうは変わり餃子って感じ.

迷った挙句,「青源みそしる亭」で食べることにした.注文したのは,「ねぎみそ餃子」.ねぎと,唐辛子+味噌味のタレが餃子の上にたっぷりかかっていて,ちょっと塩辛い感じはするものの,目新しくてなかなか美味.

この「青源みそしる亭」,餃子屋なのになんでみそしるなのかというと,味噌味の水餃子がメニューにあるのだ.メニューには写真もついていて,なかなか興味をそそる.味噌汁に餃子が浮いているみたいな感じなんだろうか.

「すいませ〜〜ん,この,青源水餃子ってのもくださ〜〜い」

ゆずの風味がなかなかGood.味噌汁っていうより,味噌ラーメンの汁って感じかな.あ〜〜〜あったまる〜〜〜

みょーなメニューはほかにもあったが(餃子ウィンナーとか),心を残しつつも店を出る.

しっかし,今日って,ほんとに寒いわ.これからもっと北に行くつもりなのに,どーなることかしらん.

餃子像発見!

今までは宇都宮駅の西口付近をうろうろしていたので気づかなかったのだが,餃子像は東口に,なんとなく遠慮がちに突っ立っていた.

・・・ふーん.これが餃子像.餃子の皮に包まれたビーナス,ねえ.・・・つーことはビーナスは餃子の具なの? 煮て食うなり焼いて食うなり,好きにしていいわけ?

・・・いかんいかん.寒さでやや心がささくれ立っているよーである.ちょっとしたことに揚げ足を取りたくなる.しかし寒いとなーんにもやる気がおきないなあ.こんな時期に旅行しようって考えがおかしかったかも,と旅行一日目(しかも午前中)にして早くも帰ることを考え始めたが・・・.ま,もうちょっと行ってみるか.

東北本線を北上するかな,と路線図を見てると,「日光線」というものが目にとまった.これって,あの有名な(←みーはーさがあらわれている)日光だよね? 東照宮とかがあるところ.ここ行ってみよっ!

日光駅に着くまで,外の景色を見ながら,いつしかうとうと眠り込んでしまう.どうせ日光駅は終点だから,乗り過ごす心配はない.Zzzz・・・

目を覚ますと,電車はとある駅に停まっていた.もう日光駅に着いたのかな? いやでもまだ乗っている人いるし.駅名を探してきょろきょろ・・・あっあった.ひらがなででっかくかいてある.

「いまいち」

日光駅の一つ前での駅である.漢字で「今市」ならどうってことないのだけれど,ひらがなだとみょーに笑える.

日光といえば.

まず東照宮.いやもちろんほかにもいっぱいあるけど.猿軍団とか,江戸村とか.にゃんまげとか,断片的なコトバはいくつか思い浮かぶ.

JRの日光駅から少し歩いたところに,東武の日光駅もあった.東武なら浅草から直通の電車があるらしい.意外に近いのね.

東照宮に向かって歩いていくと,途中,「ゆば」という文字がやたらと目につく.そっか,日光の名産って,湯葉なんだ.郷土料理,ゆば料理,そんなことを書いた旗がいたるところに立っている.ほかにも,ゆばそば,ゆばうどんあたりはまあいいとしても,ゆばラーメン・・・?

数年前まで,「湯葉」ってものの存在すら知らなかったワタクシとしましては,・・・食べてみたいんだけど・・・まだおなかすいてないし・・・ゆば料理に後ろ髪を引かれつつも,まずは東照宮をめざす.

JRの日光駅から三十分ほど歩くと,道の脇に立像が見えてきた.その向こうに川がある.結構な急流で,大きな音を立てて流れている.川にかかっている橋を渡ると,東照宮のある公園だ.

ここには,東照宮以外にも二荒山,大猷殿というのがあった.東照宮は家康だけど,大猷殿は家光関係らしい.二荒山は・・・よくわからない.

重要文化財がいっぱいである.これだけあるとありがたみが・・・むにゃむにゃ.真っ黒の門とか,塔みたいなのとか,名前は覚えていないけど.固有名詞って難しい・・・.

ま,当然ながら東照宮の見学.あれ? 冬場は四時で閉まっちゃうんだ.早いなあ.

拝観料,1300円.・・・高い,とゆーのはバチあたりですか? フトコロ具合の寂しいYURIはしばし受付で考え込んでしまった.しかしここまで来ておいて1300円が惜しいからって目的果たさずに帰ったらアホである.涙をのみつつ,漱石先生と牡丹の花たちに別れを告げる.

入ってすぐに,神厩舎ってのがあった.神馬さんがいるところなんだけど,説明によると2時までしかここにいないらしく,私の行った時間にはもうからっぽ.惜しい!

神厩舎には,あの「みざる,きかざる,いわざる」の三猿の飾りがついている.う〜〜ん日光ですねえ.

その先には,結構派手な五重塔がある.中華っぽいっていうか・・・..なんとなく赤⇔緑,金(黄)⇔青っていう補色対応を感じてしまう.しかも,この辺の建物って,竜とか獅子とかの飾りも多くて,さらにハデ度を増す.しかしっていうと,ほぼ脊髄反射的にとか鳳凰とかとか麒麟とかを連想してしまう・・・ファンタジーの読みすぎだなこりゃ.

さらに行くと,輪蔵というものがあった.中は見られなかったけど,これって,多分,八角形のぐるぐる回す蔵なんじゃないのかな.以前,どっかで回した記憶があるんだけど・・・

人の一生は重荷を負うて遠き道を行くが如し急ぐべからず

徳川家康が祀られている奥宮へ続く階段,延々二百段ほどをのぼりきったところで現れるこのおコトバ.実にタイミングがよろしかったです.まさにわたしの今の状況をあらわしていて.(今回,わたしはいつになく大荷物を抱えていたのだ)

奥宮にて,「ここまで来たぞっ!」という証拠に鈴を購入.お守りやらなんやらを売ってるのはもちろん巫女さん(の格好をしてはいるけどもしかしたらただのアルバイトかもしれない女の子)なんだけど,なんとなく,巫女さんに抱くイメージというか,幻想というか,そういったものとはかけ離れていた.仲間の巫女さんとずーっと雑談してて,私が鈴を買おうとしたら,おしゃべりを邪魔されて不機嫌そうな顔で.あんまりイメージ壊さないでほしいなあ・・・.

そのあと,本社の中を見学してから,鳴龍(なきりゅう)というのに行った.
そこは,天井には墨絵の龍の絵,床がつるつるの板張りの空間だった.

床の上に立って,拍子木を打つ.すると,拍子木の反響音とは別の,リリリ・・・といった感じの音がする.拍子木の音で板張りの床が振動し,反響音と共鳴を起こしてこんな音がするのだ.このリリリ・・・を,天井に描かれた龍の鳴き声に見立てている.

さて,そろそろ四時.拝観時間が終わる.東照宮はこれくらいにして,今夜の宿を探すことにしよう.

ところが,何も考えずに参道を降りていくと,駅からやってきたところとは全然別のところに出てしまった.駅方向,という矢印があるものの,その矢印は狭くてあまり整備されていなさそうな石段を指している.石段を降りていくと,民宿とか土産物屋とか飲食店とかが並ぶ通りに出たものの,えらくさびれたというか,わびしい雰囲気である.まあシーズンオフなんだからこんなものかもしれない.

近くのホテル(ただし和室)でちょっとゆっくりしてから,なんか楽しいことないかな〜〜〜と外に出てみる.まだ五時を少し回ったころなのに,もうあたりは真っ暗である.

暗いというのは,日が暮れたせいばかりではない.店の明かりがないのである.さっきまではなんとなく営業している雰囲気だった土産物屋やら飲食店やらが,み〜〜〜んな閉まっているのである!

拝観時間終了の四時で,全部閉めちゃったんだろうか.このへんは,みんな東照宮を中心に動いてるんだろうなあ.・・・オソロシイ.まあ駅のほうまで出たらまた様子が違うんだろうけど.

外もさびしかったが,このホテルの中も人の気配があんまりしない・・・.やっぱシーズンオフだから,宿泊客が少ないんだろうな.そんなことを思いながら,「ひのき風呂」だという大浴場に向かう.

大浴場には誰もいなかった.しかも,人が入った気配もない.・・・もしかして,一番乗り? ラッキー!

屋上には,露天風呂もあるようである.・・・でも露天ってことは,外だよなあ.このクソ寒いのに外.・・・やだ.

翌朝も,当然朝風呂である.大浴場に行ってみると,やっぱり誰もいない.しかも,きのうわたしが置いたそのままに,椅子と桶も置いてある.・・・つーことは,女の宿泊客って,わたしだけ? うひゃー.

快晴.(でも寒)

ホテルを出がけに周辺の地図をもらって,歩き出す.

まずは東照宮のそばの二荒山神社.「男峰」とも書いてある.じゃあ「女峰」はどこなんだろう.

・・・なんかやけに,掃除のおぢさんたちの姿が目につく.改修工事中なのだろうか.まあ中に入るのはOKみたいだけど.

オオクニヌシノミコトとか,スクナヒコノミコトとかの名前が書いてある.東照宮の家康,大猷殿の家光っていう実在の人と大昔の神様の同居・・・というより家康,家光の神格化ってことなんだろうな.・・・じゃあ秀忠はどーなる?

ま,ともかく,この二荒山は徳川家とぜんぜん関係ないのかな? 紋もちがうみたいだし.

「神苑」というところには,「まねき大黒」っていうものがあるようだ.なんか大きな太刀が飾ってあったけど,ここもやっぱり掃除をしていた.太刀傷のいっぱいついた化け灯篭というのがあって,これも重要文化財である.

奥に行くと,霊泉があって,飲めるようになっていた.酒の泉とか知恵の泉とか,ふだが立っている.まあ別に酒が湧いてるわけじゃない

さて最後は,家光の廟がある大猷殿である.廟の入り口は夜叉門で,雷神・風神や阿修羅とかが門を守っている.あと,持国天と広目天・・・っていったら四天王だよなあ.あとのふたりは目につかなかったけど.

雷神・風神の肌の色が赤と緑で,ここも補色関係だ.

大猷殿の脇からは,滝尾神社に行く道が伸びている.滝尾神社って,確か神苑の中にもちっちゃいのがあったけれど,分家(?)だろうか.

滝尾神社に続く道に,「女峰山」と書いてあった.二荒山に「男峰」とあったが,対する「女峰」はどうやらここらしい.石段が延々と続いており,しかも倒木が邪魔をしている!・・・なんていうと大げさだけど.ほんとは細い木が倒れていて道をふさいでいるだけで,またいで行けばどうってことはない.上を見上げると,細い木が新しい割れ口を見せている.

地図からしても,滝尾神社は結構遠いみたいだし,まあいいか・・・.荷物も重いことだし(と言い訳をして),ここは断念.

きのう泊まったホテルのある通り付近に戻り,その辺の店をひやかして回る.朝,明るい日差しの中で見ると,昨日ほど侘しい感じはしない.

「日光カステラ本舗」ってところで,栗おこわ定食,なるものを食べることにする.湯葉の刺身や煮物なんかもついてて,満足.しかしカステラに金箔をまぶすってのはなんか意味があるんだろーか? 栄養的には関係ないし,舌ざわり・歯ざわりは確実に悪くなっていると思うが・・・.

あれ? そーいえば・・・

「神橋」ってどこにあるんだろう.

東照宮のすぐ近くにあるはずなのに・・・それらしいものは見当たらない.

おかしいなあ・・・橋っていうなら川があるはずで・・・あ! もしかして・・・?

駅から東照宮に来るとき,確か川があったぞ? あの川にかかってるんじゃなかろーか?

・・・確かに,そのとおりだった.神橋は,その川にかかっていた.しかも,来るときに渡った橋のすぐそばに平行してかかっていた.

にもかかわらず,どうして来るときに気づかなかったのかというと・・・

・・・改修工事中.神橋は,工事中のため,すっぽり覆われていて外からは何にも見えなかった,というわけでありました.

がっくり.

さて次はどうしよう.もーちょっと山奥まで行ったら,滝とかも見られるみたいだけど・・・あの有名な華厳の滝も.いや有名っていってもわたしは「THE TOWER」ってゲームのせいで知ってるだけだけど.

うーん.

うーん.

やっぱやめとこ.無理はしない.わたしみたいな南国そだちが寒い地方の冬の自然にふれようってのは無謀だ,うん,そうだ.別に,寒いからものぐさになってるとか,そーゆーんじゃないからね!

来たときはJRだったから,今度は東武で北上しようっと.寒い寒いと言いながらまだ北を目指すのである.

電車が出るまでまだ時間があったので,東武日光駅前で,気になっていた「ゆばラーメン」を食すことにした.塩ラーメンで,春巻きの具みたいなのをゆばで包んだものが具として乗っていた.おいしいことはおいしいんだけど,ちょっと高いんでないかい?

このラーメン屋は土産物屋の二階にあり,東武日光駅前が見下ろせる.タクシーがそれなりに止まっており,それを見るともなしに眺めているとあることに気がついた.

タクシーの上についているアレ,タクシー会社の名前とか書いてあるやつ,なんていうのか知らないけど,アレがないのである.アレのあるべき場所には,短いアンテナみたいなのが突っ立っているだけなのだ.どうしてだろう?

さらに北へ・・・

北へ向かうには,下今市駅で乗り換えなければならない.下今市駅では,弁当屋が弁当を抱えて電車の入り口まで売りにきている.こういう光景ははじめて見る.

ほけっと流れ去る景色を見ているうち,「鬼怒川」という大きな川を通り過ぎる.それからしばらくすると,鬼怒川温泉駅だ.さてどうしよう.心惹かれるものはあるのだが・・・降りようかな,どうしようかな.

迷っているうちに電車は出発.ま,いいか.

あ,雪だ.

空は晴れているから,どこか山かなんかで降ってるやつが風で飛ばされてきてるんだろう.もっとも,このあたりも,けっこう山の中だけどね.針葉樹をかきわけるように線路がひかれ,トンネルも多い.かなりうるさくて,なんか車内放送しているらしいんだけど,何をいってるのかさっぱりわからん.

「龍王峡」なんていう,なんか神秘的で心惹かれる名前の駅を通り過ぎ,さらに電車は進んでいく.いつしか,車窓から見える風景は雪山の観を呈しはじめ,だんだんと白一色へと変わっていく・・・.

車内改札がきた.

切符は最小区間しか買っていなかったので,この電車の終点の,「会津田島」という駅まで買うことにする.

あ,面白い切符!

コンサートのチケットくらいの大きさの紙に,全区間の駅名と,日付とか分類番号とかが印刷してあって,該当するところにパンチで穴をあけるのである.駅名は,北は会津若松から,南は浅草・恵比寿・中目黒・代々木あたりまで駅名表示がされており,なかなか広範囲にわたっている.わたしは日ごろ,JR以外はあまり使っていないので,こういう切符は珍しく感じる.

この切符によると,このあたりの路線は,野岩鉄道会津鬼怒川線というらしい.いつのまにやら東武線でなくなっている.切符には,「東武日光」「新藤原」「会津高原」「会津田島」の駅にパンチが入っていた.「東武日光」は乗った駅,「会津田島」は下りる駅,「新藤原」〜「会津高原」が野岩鉄道,ほかは別の鉄道会社らしい.

さて,電車はますます山の中に入ってゆく.トンネルをいくつも通り過ぎ,トンネルとトンネルの間は雪景色.・・・そんな光景が続いてゆく.

乗客もほとんどいないし,乗降者もなし.駅舎の周りは,バージン・スノー.車両のドアが開くたびに,暖房の暖かさが逃げ,冷気が流れ込んでくる.

いつのまにか,単線だった.そのわりに駅での待ち時間が少ないのは,よーするに電車の本数が少ないってことか? なんか,景色からしても,ホテルどころか普通の店とかさえも,あんまりなさそうなんだよな〜〜.

やばいかも・・・

うわ.

曇ってきた.さっきまであんなに晴れてたのにっ!

ほんと,山の天気はうつろいやすいわ.

それとも,電車が,晴れていたエリアから曇っているエリアに移動したってことなのかな.そうだとするとそのうち,雪が降っているエリアに移動しそうでコワイ.

さて,日光から二時間ほどでとりあえずの終点,会津田島に到着した.ここも雪だらけである.鋭〜〜いつららが垂れ下がっている.オソレをなしたわたしは,駅舎を出もせずに,ホームをわたった向かいにちょうど止まっていた会津若松ゆきの電車にそのまま乗り込んでしまった.

寒さと雪なら,北のほうにある会津若松のほうがよっぽどヤバそうな気もするが・・・ドキドキ.

ホームを渡るとき,階段があるのだけれど,その階段を使わなくてもスロープで向かいホームに渡れるようになっている.これもバリアフリーっていうんだろうか.ともかく,歩く距離が短くてすむのはありがたい.

車両には,会津浪漫という名前がついているが中は汚い.ワンマンカーである.ドアの開閉用のボタンがついていて,手で引っ張って開けなくていいのは楽だ.

十五分ほど待った後,しゅっぱあ〜〜つ.窓から見える景色は,ますます冬の様相を見せている.雪も降ってきたし.空は暗いし.えーん,こわいよ〜〜!

まあ,こんなガンガンに暖房の効いた電車の中だからこそ,呑気にこういうことを書いていられるわけだけど.電車の中と外は,別世界だ.なんか降りるの,やだなあ〜〜〜.

雪山.雪の積もった広い畑.雪の積もった針葉樹.トンネル.深い渓谷と激しく流れる川,そこにかかる高い橋.・・・窓の外には,そういった景色が交互に現れては消えていく.

たまに見える家屋は,古いものや由緒のありそうなものが多い.わらぶき屋根に雪が積もっていたり.屋号のついた倉なんか見るたびに,開運なんでも鑑定団を思い出してしまふ・・・.

雪は幸い,すぐにやんだ.といって,積もっている雪がすぐにとけるわけじゃない.

それにしても,このあたりって,温泉多いんだろうなあ.駅名にも,なんとか温泉ってのがけっこうある.こういうところの温泉って,まさによくテレビのコマーシャルとかでよくやってる,雪の中のひのき風呂とか雪の中の岩風呂,そのものがあるんだろうな.

でも,いつも思うんだけど,露天風呂って,湯の中に入っているときはともかく,入る前や出た後ってむちゃくちゃ寒いと思うんだけど.

会津若松着!

「あのぉ,予約してないんですけどぉー,今晩泊まれますぅ?」

「おひとりさまですか?」

にこやかにフロントのおにーさんは聞いてくる.

「今,お調べしますのでお待ちください」

ややあってから,フロントのおにーさんは言った.

「申し訳ありません,本日はシングルは満室でございます」

ツインはありますが・・・おにーさんは言うのだけれど・・・.今回は貧乏旅行なの!・・・と言ってるわりにはけっこうお金使ってるんだけど.とにかく,別のところを探すことにした.

適当に電話予約すりゃよかったんだけど,まだそんなに遅い時間じゃなかったので,街を観光がてら,ホテルを探そうとした・・・コレが大失敗だった.

どんどん人気のない道に入り込んでゆく気がする.しかもだんだん暗くなってきたぞ・・・この辺はあんまりホテルとか旅館なんかありそうもないし・・・.

ここ,どこなのっ!? 駅はどっちだ!?

土地鑑のないところを,しかも夕刻,寒いところを歩き回る羽目になってしまった.雪は降ってこそいないけれど,けっこう積もってはいるので,歩きにくいし足が冷たい.うわっすべる!

たぶんこっちの方向のはずなんだけど・・・見覚えのない通りを歩き回るが,駅は一向に見えてこない.方向音痴なのは自覚していたつもりだったのに,今通った道をたどることができないほどひどかったとは! ちょっと自分が情けない.

どこで間違えたんだろうなあ.まあこういうことはよくあることである,うん.それにしても,人に聞こうにも,外を歩いてる人なんか一人もいやがらねえっっ!

この期に及んでも軌道修正せずに(だってどっちが正しい方向かわかんないんだもん),あたりを見回しながら歩いていくと・・・.

正面に見えてきたのは,ライトアップされたお城の姿であった.

・・・しばしぼーぜん.あれって,会津若松城だよね? ・・・つーことはまるで逆方向に歩いてきたんじゃん・・・自分の方向感覚にはあらためてがっくりである.

ホテル探し再開.

「申し訳ございません,本日は全館満室でございまして・・・」

「シングルは満室で・・・」

「もうしわけありませんが・・・」

・・・はれ?

いつぞやの北海道への旅行の際,立て続けに宿泊を断られたことが頭によみがえる.でもあの時は夏休みで,お盆の真っ最中だったから満室になるのも肯けるんだけど.平日だし,冬だし,シーズンオフなのに,何でこんなにホテルが混んでるの? 今日,なんかあるんだろうか.ちょっとばかり焦りはじめる.

こんなことなら,最初に行ったホテルでツインを取っとくんだった.いや待て,今からでも遅くないかも.早速,電話だっ!

「あのぉ〜,今日,とまれますか?」(だめなのは知ってるけど,はなしの取っ掛かりとしてとりあえず聞いてみる)

「何名さまですか?」

「一人なんですけど」(シングル満室なんでしょ,わかってるけど)

「お調べしますので少々お待ちください」

え? 部屋,ないんでしょ? 調べる間,電話代もったいないよ.

「はい,ご用意できます」

へ?

電話を切って,しばし考える.

  1. 最初に行ったときの大荷物を抱えたYURIが人相風体があまりにもアヤシすぎて宿泊拒否された.
  2. 最初にYURIが行ってから,次に電話するまでの一時間半ほどの間にキャンセルがあった.

ま,常識的に考えて2なんだろうけど.1とは思いたくないわ.

最初に断られたホテルも,時間を置いてもう一度確認してみたらOKってこともあるんだなあ.おぼえとこっと.

まーとにかくやれやれである.昨日の日光が広い和室だったので,ビジネスホテルはひどく狭く感じる.

荷物を置いて,またしょうこりもなく出かけてみた.考えてみたらまだ晩御飯食べてないし.

もう外はすっかり暗くなっていた.積もった雪で足場が悪く,しかもすべる・・・工事中のところは多いし.ほとんどの店が閉まっている街をふらふらするわたしの鼻をくすぐるあのかほり・・・

いや待て! わたしは何を考えているんだ! 昼だって,たっか〜い「ゆばラーメン」食べたばっかりなのに!

でも,あつあつの坦々麺の魅力には逆らえず,吸い寄せられるようにラーメン屋に入ってしまう.いやーおいしい! やっぱ寒いときはコレに限る!

さ〜〜てどこに行こ〜〜かな〜〜

翌朝である.今日も寒い.天気はうすぐもりだけれど,雪は降らないですみそうだ.

きのう,雪が積もって歩きにくかったって書いたけど,この雪はきのうの日中に降ったものらしい.わたしが到着したのは夕方で,すでに雪はやんでいたのだ.

そして今朝も,もちろん雪はたっぷり残っている.でも,このあたりに住んでいる人はこのくらいで歩きにくいとか大変だとか言ってられないんだろうな.

最初の目的地は,「さざえ堂」である.中が,らせん状のスロープになった仏塔だ.外観は,外からでもスロープがらせんを巻いてのぼっていっている様子がうかがえるような,ねじれたような形をしている.

このらせん状スロープががまるでDNAのごとく二重らせん構造になっており,てっぺんでつながっている・・・つまり,のぼりとくだりとで違う通路を通ることになり,上る人と下りる人が途中でかち合うことはない.

どこかの灯台で,これと似たような構造をしているところに行ったことがある(ただしスロープではなく階段だったが).

雪がだいぶ残っているうえ,さざえ堂のあるのは飯盛山という山だから,石段が滑りやすくて怖い.手すりは鉄製で冷たいし・・・.

・・・しかし工事中のところがやたら多いなあ.

あれ? 飯盛のことを,「厳島」とも書いてあるぞ・・・厳島って,広島の宮島もそんな名前だったけど,何か関わりがあるんだろうか.

白虎隊の自刃の地

飯盛山もこんなことで有名になりたくはなかっただろうが,ここはそういう場所でもある.自刃した隊士の十九人,戦死した隊士の三十一人の墓があり,墓の周りを掃除していたおじさんが,達者な語り口で説明してくれた.何度も説明を繰り返して慣れているのだろう.

「白虎」は,四神の「玄武」「青竜」「朱雀」「白虎」の,「白虎」である.会津藩では,年齢別に上から,玄武・青竜・朱雀・白虎という隊に分けられていたらしい.白虎は最年少,十代の少年で,いわば見習である.

実力は伴わなかったとしても,血気盛んなお年頃である彼らは,出動したくてたまらなかった.やっと命令が下り,喜び勇んで,糧食も持たずに嵐の中出動した彼らに,当時の隊長(唯一大人の人だった)は,「食べ物を調達してくるから戻ってくるまでここを動くな」と言い残し行方をくらましてしまう.

いや,この隊長さんの気持ちもわかるなあ.食べ物持たずに戦争に行くなんて,死にに行くようなものじゃん.

残された少年たちのひとりがリーダーとなり戦に参加するが,半数以上が戦死してしまう.

やむをえず,敗色濃厚な戦線を離脱し,いったん城に戻って体勢を立て直そう,と,生き残った隊士二十人は飯盛山まで戻ってくる.しかしそのころすでに,会津は敵に攻められ,会津城に篭城していた.町にはほうぼうから火の手が上がり,武家屋敷も民家も燃え上がっていた.

疲労困憊の極致にあった彼らは,すでに城がおち,炎上しているものと見誤ってしまった.もはやこれまで,と彼らは自刃するのである.生き残ったのはわずか一人だけで,死んだ十九名の隊士の名前が刻まれた石が,右からいろは順に並んでいる.

隊長の役をつとめたのが左から二番目の人だとか.最初に自刃した人は負傷していた右から四番目の人といわれてはいるが,本当は右から三番目の人で,この人は昔からなんでも一番じゃないと気がすまない人で腹を切るときも一番乗りをしたんだとか.固有名詞は覚えていないが,右から何番目とかそういうのだけはなぜか覚えている.あと,怪我をしていて自力で腹を切れない人は友人と刺し違えようとしたが,今度はその友人が死にきれず別の人に介錯を頼んだ・・・とか.

戦死した三十一人の墓は白虎にちなんで西を向いているが,自刃の十九人は城の方向を向いて立てられている,とか.でも城の方向は木が茂っていて,直接見ることはできない.

こんな話もあった.敗戦後,戦死した侍たちは埋葬も許されず,自刃した十九人も捨ておかれていたが,気の毒に思った人が全員まとめてこっそり寺に埋葬した.しかしそのせいで十九人の遺体はまじりあってしまったので,今もまとめて埋葬されているとか.埋葬した人は後で捕まってしまったとか.

そんなことから,長い間,幕府軍のメインだった長州とは仲が悪かったが,最近になってようやく仲直りできたのだとか.

いくさに負けた後,戦死した隊士の兄が,私財をなげうって,競売に付された会津城を買い取り,藩主に献上したという話もある.

おじさんが話してくれたことをここに書いていくときりがない.

あと,イタリアやドイツからの寄贈品の話もあった.

ただ,日独伊の三国同盟にかかわるもので,しかもファシズムのかほりが濃厚に漂うものだったので,太平洋戦争後,進駐軍の手でいったんは廃棄されたものを拾ってきて元のような形に戻したのだという.

ここの維持は市がなかなかお金を出してくれないのでボランティアがやっているのだとか,市のほうもお城ばっかりに目を向けないで,お城とは切っても切れない白虎隊の方にもお金を出してほしいものだということで,おじさんの話はしめくくられた.

墓と,実際に自刃した地は少し離れており,自刃の地には城を見る隊士の像が建っている・・・らしい.らしい,というのは,雪よけのためか,厚いビニールがかぶせられてよくわからなかったのである.

墓の近くには,下から一気にのぼれる(といってもすぐ近くなのだが)電動のスロープがついている.傾斜のついた動く歩道といった感じなのだが・・・今日は凍結していて動かないそうだ.こんな日こそ,必要なものだと思うが.

ともかく,そんなわけで,スロープはつかえなかったのでその隣にある石段を滑らないように注意しながら下りる.下りたところには白虎隊の記念館があった.

もちろん白虎隊がメインなのだが,その他にもいろいろ展示してあり,ちょっとまとまりがないというかごちゃごちゃした雰囲気だった.

戊辰戦争関連で,近藤勇とか土方歳三とかの名前が出てきて,あらためて,そーいや会津藩主の松平容保って,京都守護職で新撰組のバックについてた人なんだよなあ・・・と思う.

若松城,鶴が城,会津城

・・・と,いろんな呼び名があるが,正式名称は「若松城址」だそうだ.

なぜ「址」かというと,城自体は,明治の初期にみんな取り壊されてしまったからだ.今,建て直しをやっている.天守閣のあたりだけは再建されているようだ.

・・・ということは? ・・・そう,ここも工事中だったのである.なんか工事中のとこばっかり!

あれ? 取り壊されたって・・・? 確か,飯森山で,白虎隊士のだれだかのおにーさんが私財をなげうってお城を買い取ったっていってたよな・・・それが全部無駄になっちゃったってわけ?

天守閣の中は,五階建ての展示場になっていて,城の歴史とか代々城主,戊辰戦争や白虎隊などの資料がある.

天守閣の入場券に,「麟閣」とやらの拝観券もくっついていたので,そっちにも行ってみた.

千利休の息子の茶室だそうである.わらぶきの屋根に,「麟閣」という額が飾ってあったが,「麟」なんて字を見ると,中国ファンタジーに毒されたワタクシとしては,「麒麟」を思い浮かべずにはいられないのだが.しかも,「麒」は雄の麒麟,「麟」は雌の麒麟,なんぞといらないことまで頭の中に浮かんでくるのは困ったものだ(by 小野不由美「十二国記」).

券には,「御薬園」というところの割引券もついている.ちょっと場所は離れているのだけれど,ここにも行ってみることにした.なんとなく,誰かの思惑にまんまと乗せられているよーな気はするのだが・・・.

姫路に行ったときに見た,「好古園」を思い出した.

といっても,御薬園の方がかなり実用的だ.いわゆる生薬というのか,そのたぐいのものが植えてある.・・・植えてある,とはいえ,今は冬.ただの枯草とか,土しか見えないけど.雪が積もっているので,それなりの風情がなくもない.・・・ただ,いくぶんとけかかった雪なので,へろんとした感じなのが惜しまれる.積もりたての雪なら,もっときれいだったろう.寒いだろうけど.雪は綺麗だけど寒い.永遠のジレンマである.

御薬園の生薬をせんじてブレンドしたお茶を売っている.いっぱい種類があるんだなあ.どくだみとかはとむぎとか大麦みたいな馴染み深いのから,イチョウや松の葉なんてのまで.

「弟切草」が入っているのがあって,なんか妙におかしくて思わず購入してしまった.しかし,なんで弟切草にあんなにウケたのか,あの売店のおばちゃんにはまずわかるまい.

ここでお食事.「御薬園御膳」と饅頭のてんぷらを食べた.ミニ懐石風のかわいらしい膳だが,予備知識がないので何が特産で名産品なのかわからないんだよな〜.「にしんの山椒漬」ってのが名産なのは説明の紙がついていたからわかったけど.

まあ何にせよ,おいしければそれでいいのだ.値段もまあまあリーズナブルだし.

饅頭のてんぷらは,名古屋で食べた揚げ饅頭とか,浅草の揚げ人形焼なんかとまったく同じ味だった.まあ作り方もそう変わらないだろうから,当然か.

広い座敷なのだが,やはりシーズンオフのせいか,客がいない.やや年配の男女のカップルがいるだけである.

その二人は,「綺麗な色・・・」とのたまいつつ羊羹を食していた.しかし「綺麗な色」がどんな色なのかは,わたしのところからは見えない.気になる! しまった揚げ饅頭なんかじゃなく羊羹を頼めばよかった・・・.だが胃袋にはもう羊羹の納まる余地などない.メニューにものほしそうな視線を投げ,心を残しながら御薬園に別れを告げることとなる.

さて次は?

喜多方方面にしようかそれとも郡山の方にするか.つまりは,日本海の方向かそれとも太平洋かってことだ.・・・ひどく大雑把だけど.

喜多方でラーメンを食べて,そのあと新潟に行くか.でも新潟は前に行ったし.郡山から福島を経由し,山形に行くってセンも捨てがたい.まだ山形には行ったことないし・・・.

迷いながら,JRの時刻表を見て,ガクゼンとする.喜多方方面に行く電車の数が,異様に少ないっっっ!

まあ,急ぐ旅じゃないんだから,もう一晩ここに泊まって,会津若松を満喫するってのもひとつの手だなあ.でも,宿を取るなら早めにしないと,きのうの二の舞になりかねん.

いろいろと考えた挙句,なぜか,当初まったく眼中になかった,「高速バスで福島ゆき」ということになってしまった.JRにくらべると速いし値段も安そうだ.本数はずっと少ないけれど.

バスが出るまで時間があったので,「山田屋漆器会館」というところに行ってみた.プラザ・シアターって大書きしてあったけどいまいちよくわからない.

漆器や陶器がいっぱい並べられ,販売している.流紋焼とか会津焼とか,何がどうちがうんだか・・・.

他所と同様,観光客の姿はない.

そう,ふらふらとまわった観光地,どこもみんな,ガラガラだったのだ.・・・じゃあなんで,ホテルがこんなに混んでるんだ? わからん〜〜〜!

食堂があったので,漆器や陶器の見学はさっさと切り上げて,早めの夕食とすることにした.・・・なんか食べてばっかのような気がするなあ.

「めっぱ飯定食」? わっぱ飯っていうのなら聞いたことあるような気がするけど・・・.

炊き込み御飯,なのかなあ.ご飯に味はついてないけど.白いご飯の上に具が乗っていて,上の具にはかなりしっかりした味がついている.すっぱくないちらし寿司って感じ.器は竹製で,丸くて・・・ごく浅いたらいって感じ.

しかしまあ・・・広〜〜い食堂で一人で食べるってのは何とも・・・最初入ってきたとき,あまりのひとけのなさに,営業してないのかと思っちゃったよ.

めっぱ飯の味はまずまずなんだけど,付けあわせが生野菜のサラダってのは・・・ちょっとミスマッチが過ぎるような気がする.はっきり言わせてもらうと,ぜんぜん合いません.

ぶらぶらしているうちに,ふと思ったことがある.もっと北まで行って,船で北海道に行ってみようかな,ということである.

確か,秋田あたりから,一日一本くらい,長距離フェリーが出ていたはずだ.福岡の次は秋田に行って船に乗って・・・.よしそうしようっ!

高速バスを降りたところは.

福島駅前である.

福島駅には西口と東口があり,連絡通路があるのだが,その片隅で,人品卑しからぬ,ぱりっとしたスーツ姿のお兄さんが,落ち着き払って,折りたたんだダンボール箱を積み上げ,人が一人寝られるくらいにきっちりと組み立てていらっしゃった.

普通の勤め人らしく見える彼なのだが,なぜここで寝ようとしているのだろう? なぜあれほどまで几帳面に「ベッドメーキング」を行う必要があるのだろう? 彼はあれだけのダンボール箱を一体どこから調達してきたのだろう?

なぞは深まるばかりであるが,「じいぃぃっ!」と見つめているのも気がひけるので,連絡通路を数回往復して,ベッドが出来上がるまでを観察した.

確かに,この連絡通路は夜明かしには適当かもしれない.駅の地下にある通路で,しかも出入口がちょっと曲がっているから,風が吹き込まないので外に比べるとかなり暖かい.

そのうち,今度は,見るからにホームレスらしい男の人が二人,少し離れたところにやはりダンボールを広げ始めたが,最初の彼のようにきっちり組み立てたりはしない.折りたたんだままのダンボールを床に敷き,残りを体の上にかぶせるだけだ.

さて,スーツ姿の彼のベッドメーキングもようやく完了したようで,人ひとりが入れる程度の長い箱が完成した.

人ひとりが入れる程度の長い箱.・・・サイズといい形といい,まさに「お棺」である.

彼は,「棺桶」の中に体を入れ,寝心地を確かめている様子である.

いろんな人がいるんだな.

まあそういうことである.

「スーパー銭湯」

福島駅西口に,そーゆーものがある.「極楽湯」という実におめでたそーなというか,お気楽な名前だ.ここが朝までやっているようだから,ホテルに泊まる代わりに,今夜はここで夜明かししようと思い立ったわけである.

よく考えてみたら,前に福島に来たときも銭湯に行ったような気がする.飯坂温泉で銭湯のはしご(といっても二件だけ)したんだっけ.

中に入ると,ホテルのロビーみたいな感じになっていて,ちゃんとフロントがある.食事をするところもある.

フロントの向こうが浴場のようで,券売機で入湯券を買ってフロントのお兄さんに渡せば風呂に入れる.キャンペーン中だということでタダ券を一枚くれたが,多分使うことはないだろう.どうせなら今回の入湯料をただにしてくれりゃいいのに.

浴場は,広い.

ジェットバスが多い.寝て入るのとか,立って入るのとか,シェイプアップのお風呂とか.

それと,「替り湯」というのがあって,一定期間ごとに変わっているのだろうが,ゆず湯があった.しかし,確かに色はゆずっぽいのだけれど,ぜんぜんゆずの香りはしなくて,なんかヘンな匂いがした.まさか循環しまくって,成分なんかすっかりなくなってしまってるんじゃないだろうな?

ガラス戸で仕切られた先は,露天風呂だ.・・・露天って言ってしまえるほど外が見えるわけではないが.まあ駅に隣接しているよーなところで外が見えてもあんまり嬉しくない.

石を積んだその隙間からちょろちょろと湯が流れ込んでくるという趣向で,打たせ湯もある.

この打たせ湯って,痛い.何が嬉しくてこんなのやるんだろう?

それと,もちろんサウナもある.ひとつは塩マッサージ用のサウナで,マッサージのしかたまで図示してある・・・ただし塩はお金を払って自分で買うのだが.

もうひとつは,遠赤外線のサウナで,こっちの方が温度が高い.どっちのサウナでも,中で寝ている人がいて,のぼせたりしないんだろうかと他人事ながら心配になった.

どちらのサウナにもテレビがついていて,番組を流していたが,ちょうどテレフォンショッピングの時間で,サウナで頭が朦朧としているとこにこんなの流されたりしたら暗示にかかってしまいそうだ.

お風呂を出たり入ったりしていると,午前三時で閉店だというアナウンスが入った.あれ? 朝までやってるんじゃないのね.

しょーがないなー.ファミレスにでも行くか.で,明日の朝は始発で秋田に行って,北海道に渡って・・・.

朝の駅

さすがに朝になると,夜はまだ暖かかった東西連絡通路もけっこう冷えていた.ホームレスらしい人たちはそろそろ起きだして寝床を片付けていたが,「彼」はまだ寝ているらしく,棺桶型の長いダンボール箱が横たわってる.防寒対策は万全のようである.

山形線は,本数が少ない.何しろ始発が七時だ.車両はやっぱり北国らしく,ドアをボタンで開閉させるもの.・・・これっていいよなあ.

とりあえず始発の終点である米沢まで行ってみると,山形行きがすぐ接続されており,待つほどもなく電車がホームに入ってきた.

・・・窓が黒い?

電車の中が暖かいから窓ガラスが曇るのはわかるけど・・・なんで黒いの?

電車が止まり,ドアが開くと,おりてきたのは黒い制服の学生たちだった.

あとからあとから,終わりがあるんだろうかと思えるほど大勢の学生たちがぞろぞろと降りてくる.

学生たちがすべて下りたあとの車両に乗り込むと,がら空きだった.通学ラッシュのこの時間,乗客のほとんどが学生らしい.

座席に座り,外を見ようと目を向けた窓ガラスは白い.

まさか,窓ガラスが真っ黒に見えるほど学生たちが乗っていようとは・・・.

窓から見える景色は,白一色.ますます北国である.空はよく晴れているのだけれど,積雪がかなりあって,綺麗な雪景色を見せている.どんどん北に向かっていることを感じさせられる.

山形駅で,待ち時間が一時間ほどできたのだが,一時間ってかなり中途半端な時間だ.

駅の東口には市街地が広がっていて,駅前広場には「ミレニアム・ファンタジー」というクリスマスツリーをイメージしたものと思われるオブジェが突っ立っている.どのへんが「ミレニアム」なのかはよくわからない.

駅の案内板によると,西口のすぐ近くに山形城址公園があるようだ.ちょいとのぞいてくるか・・・

西口を出たとたん,そこは「工事中」だった.駅の案内板にはただの空き地にしかかかれていない場所に,ややバブリーなでっかい建物が建っていて,そのまわりで作業員が働いている.歩行者用通路,と矢印が引っ張られ・・・.

・・・なんで今回,こんなに工事中に出くわすんだろう.不景気だから,日本全国,あちこち掘り返してまわってるんだろーか

なんとなく城址に行く気分がなくなってしまったので,駅に戻ってきて土産物屋をぶらぶらしてすごした.東北限定のブッセとか,ポッキーとかその類のやつである.

次の電車は新庄ゆき.

メジャーリーグに移籍したあの人とはたぶん関係ない.

新庄駅の周りには,特に目をひくものはなかった.新幹線の駅もあるんだから,もうちょっとにぎやかでもいいんじゃないかと思うのだけれど.雪ばっかりである.しょうがないので,駅の蕎麦屋で「板そば」なるものを食べてから,奥羽本線をさらに北上することにする.いやこの場合,電車は「下り」だから「北に下っていく」といったほうが正しいのだろうか.

この「板そば」,平たい器に盛られたもりそばなのだが,量がむちゃくちゃ多い.あと,なんだかそばが短かったが,これは「板そば」がそーゆーものなのか,行った蕎麦屋がたまたまそうだったのかは不明である.よーするに,よーわからん,ということである.

駅周辺のあちこちで「納豆くじら汁」っていうのが目についた.郷土料理らしいのだが.普通に考えれば納豆と鯨肉の入った汁なんだろうけど・・・

食べられなかったので,ナゾのままである.

くじら餅というのもあった.鯨肉の入ったお餅・・・というわけではなく,形が似ているだけの米粉の餅だった.

どこに行ってもそうだと思うけれど,郷土の素材を使ったお菓子ってある.これを食べるのが旅行の楽しみのひとつだ.いや地方限定のポッキーなんかもあれはあれで楽しいんだけど.

新庄では,「新庄チェレンコ」ってのをみつけた.白餡の饅頭に,梨の果肉が入っているもの.チェレンコ・・・って,たぶん方言かなんかだろうとは思うんだけど,チェレンコフ光を連想してしまうではないか.こわ!

さっきも書いたとおり,駅まわりはそれほどにぎやかではなかったが,駅の観光案内センターにインターネットの無料接続サービスのコーナーがあるってのはたいしたものである.

パソコンを触るのも久しぶりだ.最近までネット漬だったわたしは,インターネットと携帯電話から切り離されたことで,まるで半分耳がふさがれたようなもどかしさを感じていたのだが・・・そしてまた,そのもどかしさが,意外なことに心地よくもあったのである.

このあたりは無人駅が多いようだ.駅につくたびに車掌さんが切符を集めて回っている.なんかイナカを思い出すなあ.

イナカとの違いをあげるとすれば・・・うちのイナカじゃ,これだけ雪が積もったら,確実に汽車が止まる

将棋で有名な天童市(歌手とはたぶん関係ない)は素通りし,大曲駅を通過し,刈和野という駅では電車の中から見える形で飾ってある「刈和野の大綱」ってのに目をうばわれ・・・.

そしてその後.

あ〜〜う〜〜〜.なんたることっ!

今,わたしは東京行きの「こまち」の自由席に座っている.

そう,新幹線でイナカに帰る途中なのである.

「こまち」は淡いピンクのラインで,なかなかかわいらしい.なぜか11号車〜16号車の六両編成・・・変なの.なんで一号車からじゃないんだろう.しかも座っている方向と逆の方向に動き出すし・・・.

え? ああ,秋田へ行って,北海道へわたる計画はどうなったかって?

秋田までは,一応行ったのである.ところが着いたとたんに,ヨンドコロナイ事情で緊急帰宅を余儀なくされてしまった.え〜〜ん.せっかく秋田まで行ったのにぃ〜〜〜! しかも新幹線なんて,高いよお! ひこーきだとかえって交通の便が悪いし.

もーやけ食いでしょ.・・・と思って購入したのは「まいたけわっぱ」という駅弁である.会津若松の「めっぱ飯」となんか名前が似てるから,どこがどう違うのかを知りたかったのだけれど・・・よくわからなかった.器は同じような丸くて浅いもので,ご飯のうえに具をならべてあって.まあ当然,具の中身は違うけど.

盛岡で,「こまち」に「やまびこ」を接続するんだそうだ.そういえば前仙台に行ったときも,こまちとやまびこがくっついてるのに乗ったっけ.やまびこが1号車〜10号車の十両編成で,二つがくっついて1〜16号の十六両編成になるわけだ.

あれ? いつのまにか,進行方向が座席と同じ方向になっている.いつ変わったんだろう.

この新幹線,停車駅が少なくて快適だ.・・・それでも,上野駅は絶対停まるんだよな・・・.

東京駅で,東海道新幹線に乗り換え.静岡を出てしばらくたったころ.多分掛川か袋井あたりだが,左手にみょーなものをみつけた.きょーりゅーの親子である.首長竜だ.ブラキオザウルスとかなんとか,そんな感じの名前のやつではなかったかな.

目を凝らすと,FRPなんたら,っていうのがかろうじて読み取れたところで,後ろにすっ飛んでいった.やっぱり新幹線は速いわ.多分なんかの広告だと思うんだけど.FRPであの恐竜を作ってるんだろうか.

京都駅では,舞妓さんたちがホームで新幹線を待っていた.出張だろうか.ちょうど日没のころあいで,沈みかけた夕日が鮮やかな赤色の真円を描いている・・・

とゆーわけで,今回の旅行はこれでおしまい.今回は心残りがいっぱいなので,また今度ゆっくり来てみたいものである・・・とはいえ四国の片田舎に引っ込んでしまってはそれも難しいか・・・

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