屋久島―種子島(1999.1)


「屋久杉見にいきたいよん」

高校時代からの親友が,電話口でのたまわった.

屋久杉っつーと,あれを思い出しますね.あれ.新井素子の「グリーンレクイエム2」.屋久島の山奥にある,樹齢何千年という縄文杉.

「えー.屋久島より,種子島の方がいいよー.杉よかロケット.やっぱ時代は,宇宙でしょう!」

我ながら,わけのわからないことを答えたものである.

ま,そーゆーわけで,屋久島・種子島に行くことになってしまった.
問題の縄文杉は,と.ガイドブックによると・・・往復8時間ですと!?

「・・・8時間かけて登山するのっ!?」

自慢じゃないが,わたしも彼女も,体力のなさには自信がある.

「そこまで行かないよぉ」

車で行ける程度の,近場まで・・・そう彼女が言ったので,ほっと一安心.

道が整備されていて,車で行けるようなところでも,弥生杉とか,いろいろあるそうだ.
ナルホド.観光用の「屋久杉ランド」っていうのもあるのね.名前はちょっとマヌケだけれど.

「ホテルとチケットの予約しないと」

彼女は言う.

・・・あ,そっか.そーゆーのしなきゃいけないんだ.
そーだそーだ.今回はひとりの旅行じゃないんだから,ちゃんとしとかなきゃ.

とは思ったものの.結局,彼女がほとんどやってくれた・・・

まずは屋久島

空港で待ち合わせして,まず鹿児島に飛ぶ.市内をちょっとぶらぶらしたけど,今回のメインは鹿児島じゃないから,せいぜいアーケード街を見て歩くくらい.

鹿児島空港から,屋久島ゆきの飛行機がでている.

ヲイ.
・・・なんじゃこのちっちゃなひこーきはっ!

客席は機体の右側に二列,左側に一列あるだけ.まるで路線バスのよーです.決して背が高いとは言えないわたしでさえ,歩くと頭がつかえそうになる.・・・だいじょーぶかな・・・なんか天気よくないし・・・

わたしの不安を乗せて飛行機は離陸する.ゆれるゆれるゆれるゆれるっっ!

・・・・・・

飛行機は揺れながら,空港に到着した.

屋久島は,雨だった.
このときは知らなかったんだけど,屋久島って雨がむちゃくちゃ多いところらしい.

空港のロビーでは女の子が三人,荷物をまとめなおしている.彼女らは,知るヒトぞ知る「衣嚢」を背負って,雨なんかものともせず,元気よく出ていった.

「あのコたち,今から山登るのかなあ・・・」

「・・・どーだろ?」

天気予報によると,午前中で雨は上がるという話だが,とてもそうとは思えないほどの激しい降りかたなのだ.

路線バスの時刻表を見ると,一日5本くらいしかない.

「タクシーだね」

ここはリッチに,タクシー借り切り旅行!
観光地はたいていどこでも,タクシーの運転手がガイドをしてくれる観光プランがある.大きな観光地ならバスもあるところだが・・・

天気が悪いにもかかわらず(むしろ悪いせいかもしれない),タクシーはほとんど出払っていたが,お茶を出してもらって十分くらい待つと,すぐに一台やってきた.

スギ.

とりあえずの目的は,紀元杉だ.

車で走っていると,雨が上がり,だんだん陽がさしてくる.とはいえけっこう道は悪く,まがりくねっている.

あ・猿だ猿だー!!
ガードレールの向こうがわに,5〜6匹の猿がこっちをじっと見ながらしきりになにかを食べている.もうちょっと行くと,ちらっとだけど,鹿のお姿も見えた.

紀元杉のもとに行く途中にも,屋久杉がいろいろある.ほんとうにでかい.幹が太くて,ごつごつ節くれだっていて,よじれていて,背が高くて.

・・・・・・

紀元杉は,上の方が折れたみたいになって,無くなっていた.道脇に,下に降りて行ける階段がついていて,この階段を降りて行くとながーい時間を超えてきた太い太い幹を間近に見ることができる.

雨上がりのせいもあるのだろうけど,なんだか空気も澄んでひんやりして,気持ちがいい・・・けっこう暖かいから,今が一月だということも忘れそうになる.

続いては,屋久杉ランドである.

ここでは,ある程度整備された細い遊歩道を通って,原生林をちょっとのぞくことができる.雨がさっきまで降っていたから,道がぬかるんでいてすごく歩きづらい.わっすべる!!

もちろんここにも,大きな屋久杉がたくさんある.よじれたもの,根っこが出たもの,ふたつがねじり合わさったもの,大きな木から新しい芽が生えているもの,枯れかかったもの・・・

ずっと昔に伐採された切り株や,倒れた屋久杉,大きな石なんかが苔むしていて,まだ濡れている苔が,ちょっとだけさしてきた太陽の光を反射してきらきら光っている.

なんだか幻想的というか,宗教的というか.

天空の城ラピュタの,苔むして動かなくなったロボットを思い出した.

何千年間もここに立ちつづけている大木.

苔むし,土に返る日を待っている倒木.

こういう,「長い長い時間の流れ」を感じるものは,とても好きだ.なんだか厳かな気持ちになる.

そして種子島

駆け足で屋久島での一日を終え,翌日は次の目的地,種子島!

屋久島へ来たときは空路だったが,出るときは海路.フェリーを使う.

地図で見ると,屋久島はほとんど円形で,種子島は細長い.そして目指す宇宙センターは,種子島の南にある.

日本で最初に鉄砲が伝来したこの島に,今はロケットの発射施設がある.

いわば,時代の「てくのろじー」の最先端をつっぱしている島なのだ.

フェリーに揺られることしばし・・・港に到着.

・・・またしても,周りになにもなし!

バスは朝と夜しかなし!

「またタクシー・・・?」

「そだね・・・」

なんかいよーにお金のかかる旅行だなあ・・・

そんなことを思いつつ,雑貨屋さんの店先にあるピンクの公衆電話にて,タクシーを呼んだ.

種子島宇宙センター

宇宙科学技術館にて,さまざまな展示をじっくりと見ていったが・・・

わたしにとっては,技術館の中よりも,外のほうが驚異だった.こんな綺麗なところがあるんだ,とまで思った.

宇宙センターの中に,ロケット発射・制御のシミュレーションをさせてくれる施設があるというので,行ってみることにした.子供向けのものかもしれないが,まあいいだろうと思って.

車道は舗装されていて広い.その広い車道を,美しい景色に誘われて,わたしたちは歩いて行くことにしてしまった.

予想していたより,はるかに遠かった.しかもほとんど昇りの道できついのである.行きかう車に何度ヒッチハイクを試みようとしたか・・・(結局しなかったけど)

でもそれも無駄ではなかったのだ.

この広さ!!

そして眺めのよさ!!

こんなふうに,ゴシックbold18ポイントであらわしたいような景色が広がっていたからだ.

あの海岸線・・・だんだんとうつりかわってゆく海の色の美しさ.そして水平線をへだてて雲ひとつない空.

ロケット発射台が遠くに見えている.

こんな雄大な自然の中から,広大な宇宙へとロケットは飛びたって行くのだ.

いちど,打ち上げを見にきたいなあ・・・.

・・・・・・

ロケット発射・制御のシミュレーションは,本格的でけっこう難しかった.わ〜んなんか難しいこと言ってるし.わ,エンジン点火のタイミングがずれた!すぐにコースから外れる〜〜〜

・・・と焦りまくっていたら,横でやってる友人はいとも簡単にこなしていた.

「本物じゃないんだから,そんな難しいわけないでしょ」

・・・が〜〜〜ん・・・

・・・・・・

さて,その日のホテルは種子島の北端に取ってあったので,再びタクシー.種子島縦断である.・・・あーまたお金がかかる〜〜〜(ココロの叫び)

しかし,さすがは種子島.

ホテルのロビーに火縄銃を展示してある.

そう,火縄銃といえば,鉄砲館にも行きたかったのに・・・駆け足旅行のため,断念せざるを得なかった.

鹿児島にフェリーで帰ってきて.次の日からまた現実に戻され,仕事に追いまくられる日が始まる・・・

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