海外で新年を迎える.・・・なんていうと,使い古されたされたオヤジギャグの世界になってしまうが.四国から見ると本州は海の向こうだ.橋が何本かかっていようと.
本州最南端の地とは,和歌山県は潮岬のことである.太平洋から昇る朝日を見るために,わざわざ前の日の夜から船に揺られてバスに揺られて,はるばる本州まで出向くというのはわれながらヒマなことだと思うが,まあいい.行ったことのないところに行くのは,それだけで充分楽しいから.
今回も観光シーズンなので,例によって,ツアーにまじっての旅行である.さすがに正月に観光地を自家用車やレンタカーで突っ走るほど無謀じゃない.
さて,初日の出を拝むべく,大晦日の夜に出発.多少曇ってはいたが,空には綺麗な月が浮かんでいた.明日はちゃんと晴れるだろうか.これで雨が降ったらなかなかマヌケなことになるが,そこまで予想はできないしなあ・・・.
日付けが変わる頃,観光バスはほぼ満員の乗客・乗務員を乗せたまま,徳島港から和歌山港ゆきのフェリーに乗った.
フェリーは,ツアーの一行しかいないのではないかと思われるほど,ガラガラだった.普通なら,鞄を枕に絨毯の敷かれた床にめいめい適当に寝っ転がって目をつむるだけなのだが,ここまで客が少ないと,なんだか野原で寝ているようでかえって落ち着かない.
・・・と思っていたのだが,わたしの神経もそれほど繊細ではなかったようで,港への到着を知らせる船内放送が流れてはじめて目を覚まし,大慌てでバスに戻る.
バスは和歌山港から一路南下,潮岬へ向かうのだが,外は当然真っ暗,景色を見る楽しみもない.眠るくらいしか,やることがないわけで・・・.
夜明けよりはるか前に,バスは潮岬に到着した.そこにはすでに,似たような観光バスが何十台も止まっている.わたしたちを乗せたバスも,その最後に綺麗に並んで停車した.さらにそのあとにも,続々とお仲間が続いている.
わたしのよーな観光客のために,朝もはよから,観光センターが開いていた.暗くてよくわからないが,観光センターから道路をはさんで海岸があるようだ.
海岸ぶち,といっても海岸線ははるか崖下だが,そこには,本州最南端の地という碑(?)がある.そこからぼんやりと,まだ暗い水平線を眺める.海面には船の灯りが見える.
空が明るくなってくるのと正比例のように,だんだんと人が増えてくる.暴走族とおぼしき皆様がゴッドファーザーのテーマなんぞを流しながらエンジン音高らかに走りすぎたりもする.
人ごみの中で初日の出を堪能したあとは,那智大社にて初詣である.どこをどう走っているのかよくわからんが,海岸沿いの道をひた走る.
途中,鯛の形をした島や,奇岩の列を見ながら・・・.晴れた朝日の中で,なかなか見応えのある景色だ.
ものすごい渋滞を覚悟していたのだが,意外に道は空いていたようだ.
那智の滝を遠目に見ながら,まずは那智大社に初詣.やはり人が多い.表参道の脇に連なる店先を覗きながら,階段と坂道を登ってゆく.
めったに買わないお守りなんかを買ってみたりして,わたしも観光産業にすっかり乗せられているといえよう.
さて,土産物屋で目につくのは,真っ黒な石である.那智黒,というやつだ.碁石に使われているらしい.黒石は那智黒,白石は何かの貝のようだ.
碁石だけではなく,碁石をくりぬいたあとの丸く穴のあいた石を,安い値段で販売しているのには笑ってしまった.商魂である.
続いて那智の滝に行ったわけだが,さすがにこの落差はすごい.上から見下ろすと目が眩みそうだ.といっても,実際にあそこでしめ縄を付け替えたりしている人もいるわけで・・・
滝からの帰りにバス群の渋滞にすれ違った.少し時間がずれていたらあの中に入ってしまったのだと考えると,幸運か,ツアー会社の時間の組み方かにか,とにかく感謝である.